溺愛音感
遠ざかって行く会話の内容は意味不明だが、とても仲がいいことだけはわかる。
こんな時間に呼びつけて、文句も言わずに来てくれる友だちなんて、わたしにはいない。
(遠慮なく付き合える友だちがいるって……どんな感じなんだろう?)
家族でもなく、恋人でもないのに、心の距離が近いという感覚は経験したことがないので、よくわからない。
(気が合うのが友だちなのだとしたら……)
思い浮かんだのは、美湖ちゃんの顔だ。
(でも……美湖ちゃんが知ってるわたしは……ほんとのわたしじゃないから、友だちにはなれないか)
全部打ち明けても、いまと変わらぬ態度で接してくれるかどうか、わからない。
それまで「好き」だと言ってくれていた人が、蔑みの表情で「嫌い」だと言うのを目の当たりにしてきた。
「ハナ? どうした?」
戻って来たマキくんは、お医者さんに対抗しているのか、しきりにわたしの頭を撫でてくる。
「……なんでもない」
「いま、お粥を作ってやるから、それを食べて薬を飲んで寝ろ」
「お粥?」
「日本の病人食のようなものだ」
真面目な飼い主は、お医者さんが買ってきてくれた冷却シートをわたしの額に貼り、「お粥」なるものを作って食べさせてくれた。
正直、ぜんっぜん美味しくない代物だったけれど、食後のデザートにリンゴをつけてくれたので、不平を言うのは我慢する。
汗をかいた身体を拭いたり、水分を補給するよう促したり。
甲斐甲斐しくわたしの世話をしてくれるマキくんだったが、普段の五分の一くらいまで口数が激減している。
別人のようだ。
できるだけ静かに寝かせておいてやろうという心遣いなのかもしれないが、あまりにも普段と違うのが気になって、余計に落ち着かない。
ついには、しばらくゲストルームで寝ると言い出したため、引き留めた。
「マキくん、どうかしたの?」
「どうもしない。傍に誰かがいるとゆっくり休めないだろう?」
「もしかして……さっき、お医者さんが言ったこと、気にしてるの?」
「立見が言うように、ハナのペースを考えずに無理をさせていた。環境が変わるだけでもストレスになるのに、配慮が足りなかった。反省している」
(配慮……反省……)
俺様は、聞く耳を持たない生き物だと思っていたので、驚いた。
「マキくんのせいじゃないよ」
あのお医者さんが指摘したように、かまわれ過ぎだとは思うが、今回体調を崩したのはマキくんのせいではない。
無謀なアルバイトの入れ方をしたせい。
自業自得だ。
「単にバイト、ハードスケジュールが続いたせいで熱が出たんだと思うから……」
「そうだっ! 大体、ハナは働きすぎだっ! 何を考えて、一日十五時間以上も働いているんだ。いままで野放しにしていたことが、悔やまれる。身体を壊しては、元も子もない。アルバイトは辞めろ!」
しょんぼりしていたのが一転、表情を険しくしてガミガミ叱るマキくんに、やぶへびだったと思いながらも、反論する。
「ヤダ」