眩むような夜に、
「……まぁ、ナンパは冗談だとして」
冗談?たちが悪いよ。本当だったら、なんて思っていたわけじゃないけれど。
じろりと睨むと、彼はこほんと小さく咳払いをした。
「君ともっと話したいっていうのは、ほんと」
──どきり。心臓が、大きく跳ねる。
彼が、それをその場しのぎというにはどうにも引っかかる表情をしていたので、私はいよいよ困惑するしかない。
「……本気?」
気がついたら、そう訊き返していた。もしも本気なら、私は彼の正気を疑う。
すると。彼は、真正面から私を見据えて。
「なんとも思ってない奴口説きに来るほど、俺、暇じゃないよ」
「……っ」
慣れない直球な言葉に息が詰まり、耐え切れずに顔をそらした。
嘘、嘘。嘘ばっかり。だって、私たち、今まで接点なんてなかったでしょ。
それなのに、どうしてそんなことが言えるんだ。
私はもう、傷つきたくなんかないんだよ。だから、意味もなくかき乱すなんて、やめてよ。