眩むような夜に、
「……俺の前で、無理して強がんなくていいよ」
「……え」
やめてよ、そんなこと言われたら、縋ってしまいたくなる。ギリギリのところで保っていた細い糸が切れてしまったら、きっと、もう動けない。気を抜いたら、感情が、下まぶたからこぼれ落ちてしまいそうだった。
「……。そう見える?」
へらりと笑って見せると、彼はわずかに顔を歪めた。
いつの間にか、私、作り笑いが下手になってしまったみたい。それでも、今まではそれで十分だった。
それなのに、なんで気づくの。いちばん気づいてほしかった人はもう私のほうを振り向いてくれないのに、どうして。
「あいつも馬鹿だよな、こんなかわいい子、みずから手放すなんて」
まぁ、そのおかげで俺にチャンスが回ってきたわけだけど。彼は、冗談めかして、そう言った。