眩むような夜に、
「警戒するな、は難しい注文じゃない?私、あんたが誰かも知らないのに」
私は、改めて彼を見上げた。背は……高い。艶やかな黒髪は、夜に違和感なく溶け込んでいる。それに、暗くてよく見えなかったけれど、彼が来ている制服には、見覚えがある気がする。
「あれ、まだ言ってなかったっけ。俺、君の彼氏のクラスメート」
彼は、みずからを指差して、なんでもないというふうにそう言った。けれどそれは、予想だにしなかった言葉で。私は、ぱちぱちとまばたきを数回繰り返した。
「クラスメート……?」
もしかしたら、聞き間違いかもしれない。聞き取った言葉に自信がなくて、確かめるように口にすると、彼は満足げにうなずいた。
「そ。だから怖がんないで」
怖がんないで、なんて言われても。依然として、警戒は解かない。でも、わけがわからなかったさっきよりは、少しだけ、状況がわかった。
制服の見覚えの正体。……あいつの高校の制服だ。私が着ることを選ばないで後悔した、あいつが着ている制服。
ということは、目の前の彼はあいつと同い年なのか。あいつと同い年ってことは、イコール私とも同い年。そう見えなかったのは、チカチカと点滅を繰り返す街灯のせいか、彼とのおかしな距離のせいか。……世界にふたりきりだと錯覚させる、ゆるやかな夜のせいだ。