カラダで結ばれた契約夫婦~敏腕社長の新妻は今夜も愛に溺れる~
「どうして?」

「……実は、鞠花から渡せって言われていて。ちゃんと渡せないと困るんだ」

「受け取ったことにしておくから――」

「それじゃ困るんだ!」

ガチャン!とひと際大きな金属音が鳴った。彼の剣幕が恐ろしくなって、清良は一歩後ずさる。

「その……鞠花から、家を見てこいと言われているんだ。どんな家に住んでいるのか興味があるんだって。ここからじゃよく見えないし、少しでいいから……中に入れてくれ」

「誰も入れるなって言われてるの。ごめんなさい」

「頼むよ! ほんの少しでいい! 俺の立場、天羽さんならわかるだろ? このまま引き下がったらどうなるか!」

泣きそうな顔で頼まれて、ぐっと唇をかむ。同情してしまうのは、鞠花のわがままに苦しめられてきた清良だからこそだろう。

このまま北村が鞠花のもとに帰ったら、なんと言われるか。言われるだけならいい、彼の場合は借金までしているのだからいっそう立場が弱い。なにか報復をされるかも。

「……少し見せるだけ。その代わり、見たらすぐに帰って」

仕方なく清良は鉄門のロックを解錠する。花を模った豪奢な鉄作がギィッと開く。

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