カラダで結ばれた契約夫婦~敏腕社長の新妻は今夜も愛に溺れる~
二、三階はボックス席になっており、一般人には手が出せないルートでチケットがやり取りされているようだ。

普通であれば縁のないこの場所に、わけあってお忍びで遣わされた清良は、自分の存在を誰にも悟られてはならなかった。当然、助けを求められる人もいない。

劇場の外に出て、通路の壁に手をついてやっとのことで歩きながら、休む場所を求めて彷徨った。

通路の先はホワイエだが、公演中とはいえ関係者の多いその場所へ向かうわけにはいかない。身を隠すように進む先を変える。

とはいえ、どこへ向かったとして、この苦痛が和らぐとも思えない。

コルセットは、一度脱いでしまうとひとりでは着直すことができない。途中で脱いだといえば、彼女からどんな仕打ちをうけるか。

緩められるような構造でもないし、このまま我慢するしかないだろう。

途方に暮れ、ふらふらと歩いていると。

「もし。大丈夫ですか?」

唐突に声をかけられ、清良はびくりと肩を震わせた。

振り返れば、そこに立っていたのは微笑をたたえた紳士。

艶やかな素材で仕立てられた三つ揃えのスーツに、綺麗に整えられたミディアムヘア。

彫りが深く男らしいながらも美麗な顔立ち、文句なしに立派な長身と体躯。そして、ノーブルな佇まい。

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