カラダで結ばれた契約夫婦~敏腕社長の新妻は今夜も愛に溺れる~
ふ、と小さく息をついて、真鍋は眼鏡のブリッジを押し上げた。

「あなた様は、他人の尻ぬぐいが嫌なだけですよ」

実際、部下が多少のミスを犯しても、上が頭を下げて誠意を示せば済むことが多い。

なんなら相手方の利益を少々上乗せしてやれば、こちらは多少損を被るが、その程度リスクヘッジの一部として許容できる範囲だろう。

だが、どうせ頭を下げに行くくらいなら、最初から自分がやったほうが早いだろうというのが総司の持論。

「部下がみんなお前のように狡猾なら任せられるんだが」

「そんなおぞましい世界、私は御免ですね」

それはごもっとも。総司はひょいと肩を竦める。

車が東京駅よりも南下していることに気づき、総司は向かう先が空港であると知る。

「今日は城ケ崎ホールディングス本社で会議ではなかったのか?」

「それは後日に。まず、パリに向かってもらいます」

どうやら日本での予定は後回しにされたらしい。身内にはワガママが言いやすかったのだろう。

重要な取引先企業との会食があるパリの予定が優先された。

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