カラダで結ばれた契約夫婦~敏腕社長の新妻は今夜も愛に溺れる~
無茶苦茶な決断だったと自覚しているが、タイミングを考えれば一番懸命な判断だったと言えるだろう。

彼女のすれたところのない、まっすぐで善意の塊のような性格も気に入っている。結果論ではあるが。

(男と寝るのは、初めてだったんだろうな)

出会った日、ベッドの中で気がついた。これは男を知らない身体だと。

きっと、院瀬見家の娘にこき使われながら、男のひとりも作ることを許されない不遇な人生を送ってきたのだろう。

あの反応は、尼僧並みに男性との関係を断絶して生きてきた結果だ。

そんな彼女を抱くのは、正直言って楽しかった。

なにより、彼女の表情が気に入った。身体を重ねることを罪と感じながら、誘惑に抗うこともできず、恐る恐る自分に手を伸ばしてくる純粋さと貪欲さに愛おしさを覚えた。

『俺の身体に溺れるのはかまわないけれど、心までは溺れないでくれ』

まるで自分自身に念を押すかのようなセリフだ、溺れかけているのは自分かもしれない。

なぜ彼女に触れてみたいと思うのか。自ら進んで口づけしてしまうのか。ベッドに押し倒して、自分の欲情をぶつけてしまうのか。

契約相手に、なぜ愛着が湧く?

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