カラダで結ばれた契約夫婦~敏腕社長の新妻は今夜も愛に溺れる~
その答えは、彼女のような女性を求めていたから。

そう薄々感づき始め、わずかに焦りを覚えている。本当に自制しなければ、こちらが溺れてしまいかねない。

朝食を食べないと告げたときの彼女の顔がしばらく頭から離れなかったのは、彼女の好意を踏みにじったことに罪悪感を覚えたからだろう。

そして『寂しくはないか?』という問いに『寂しくはありません』と言い切った彼女の矛盾に満ちた表情。

じっと見つめてくる潤んだ瞳は、どこか物欲しそうでいて、かといって何を求めてくるわけでもなく、謙虚に、慎ましく、ただ自分に与えられた役割を果たそうとしている。

(こんな女性は初めてだ)

じわじわと興味が湧いてくる。彼女の頭の中は、一体どうなっているのだろう。

と、これ以上、のめり込まないように気をつけなければと自らを戒める。

気分を切り替えるように、クーラーボックスからブラックのコーヒーを取り出し、一気に呷った。

しびれるような苦みが、頭を冷ましてくれる。

自分は経済界のキーパーソンだ。求められているのは、家族ごっこではない。この世界を回すこと。

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