chocolate of midsummer〜遅咲きのバレンタイン〜
「これ、あたしのおごり。あげる」

ごめんね、なんて素直にまだ言えない。あたしは栄治に買ったアイスを差し出した。栄治は「えっ?いいのかよ?」と驚いている。あたしは強引に栄治にアイスを手渡した。

「ひっ、人の善意は黙って受け取れ!」

あたしが喧嘩する前のように言うと、栄治も「わっかりました〜」と笑う。長く続いた気まずさが少しずつ薄れていった。

「早く食べようぜ。バス来るまで時間あるし」

「うん」

あたしと栄治はバス通学だ。アイスはバス停のベンチに座って食べることになり、そこまで歩く。歩いている間、あたしたちは何も話さなかったけど、あたしの中には幸せがあった。

屋根で日陰が作られているベンチに座ると、真夏の暑さが少し和らいだ気がする。溶けないうちにあたしは白い袋の中からアイスを取り出し、すぐに口に入れた。

「んん〜、おいしい!」

あたしが笑ってそう言うのに対し、栄治は黙々と食べている。おいしい時、栄治は何も言わないので、このアイスをやっぱり気に入ってくれたんだなと思った。
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