【修正版】午前8時のシンデレラ
だが、彼女は身体を重ねた時、一度だけ「一条さん」と呟いた。
聞き間違いではない。
確かに彼女は俺の名を口にした。
自分から名乗ってはいないし、名刺も渡してはいない。
自分は彼女の事を知らないが、彼女は俺の事を知っている。
恐らく彼女の出で立ちからしてこのホテルでの結婚式の出席者だろうが、同じ会社の社員なのかもしれない。
学校は大学までずっと私立だったし、同じ学校だったなら見覚えがあったはずだ。
この鍵はひとつの希望。
「絶対に見つける」
自分に言い聞かせるように呟き、彼女の忘れた鍵をギュッと握り締める。
それから鍵を忘れないよう洗面台の上に置き、シャワーブースに入った。
シャワーを浴びると、だんだん頭がすっきりしてきて体のだるさも取れてきた。
希望が見えてきた今、彼女をどう探すか考える。
「まずはホテルのフロントかな」
もう自分の目には、彼女しか見えてなかった。

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