【修正版】午前8時のシンデレラ
上辺だけの微笑みなら私はきっと彼と打ち解けて、自分の全てを捧げることはなかっただろう。
いけない。あの夜の事は忘れるんだ。
ブンブンと頭を振ると、間抜けな事に頭を壁にぶつけた。
ゴンという音がして、髪を留めていたバレッタが床に落ちる。
「……痛い」
纏めていた髪がバサバサっと落ちて、肩に広がった。
「大丈夫?」
一条さんが屈んでバレッタを拾ってくれるが、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
上司に拾わせてどうするのよ。
「すみません」
恥ずかしい。穴があったら入りたい。
異動初日から何をやっているんだろう。
「これ壊れたみたいだ」
一条さんからバレッタを受け取る。
「安物ですから、仕方ないです」
「……髪。そうだな。今日は下ろしておいた方がいいかもしれない」 
一条さんはひとり納得したように呟き、不意に私の首筋に触れた。
背筋がゾクリとして一瞬にして身体が固まる。
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