檸檬が欲しい
「おい、大丈夫か?」
「おぉお怪我はありませんか?」
ギュッと瞑っていた目蓋をそっと開けると、
半分パニックになっている看護師に、さっきまでの真っ赤かな顔が青ざめている老人。
そして僕の右手はアームサポートを握り、左肩には女性の頭があった。
良かった
間に合ったんだ。
周りにいた患者や看護師が手助けしてくれ、僕を押し潰して斜めになっている車椅子を元に戻すことができた。
『少年、凄かったよ』
『もう駄目かと思った〜』
周りの人も安堵した様子で夏祭りのクライマックスである花火の最後の一発が打ち終わった後のような賑わいだ。
「君、怪我はないの?」
僕より少し歳上だろうか。
艶のある黒髪が胸まで伸びていて、涼やかな切れ目が印象的な人だ。
「僕は全然…そちらこそ、えっと大丈夫ですか?」
一番の被害者に心配されて拍子抜けした声が漏れた。
僕はどっちかと云うと外野から勝手に突っ込んで来た身だし。
「助けてくれてありがとね。お陰様で怪我をせずに済んだわ。それと君その制服…」
女の人が何か言い出そうとしたとき
「ねぇちゃん!!!」