檸檬が欲しい


病院中に響いたのは男の声。


声の持ち主である近づいて来た青年は艶のある黒色の短髪に迫力のある切れ目。


整った顔の下唇には絆創膏を付けている。


間違いなくこの女性の血縁者だろう。


青年は鬼の形相で、まるで金棒を持っているかのように重々しい足取りで此方に近づいて来る。





ヒィィィ、こわっ!!

後で気づいた事だが、彼は目つきが鋭いだけでなく、180あるかないか位の高身長で更に体格も良い。

きっと何かスポーツをやっているに違いない


しかしその体格が余計に威圧的なのだ。



「おいジジィ、テメェか」

鬼は右手で先程の老人の胸ぐらを掴む。



「ヒィエッ!!」

とてもさっきまで看護師に怒鳴ってた人には見えない程情けない声だ。


けれどそれは僕もだった。

あの時の瞬発力は何だったんだというぐらい彼の圧力に老人を庇うことも出来ず、目の前でその様子を見ることしかできない。


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