*・.・* 時間旅行 *・.・*
「よぅ!
初の担任………頑張れよ。」

生徒達に現地解散を伝えて、職員室に帰ろうとした俺に

ポンと肩を叩いて話しかけて来た。

「おぅ。
そっちは?」

俺と違い、成績優秀者だった澤は

兄の影響もあり、早くから教職を目指して勉学に励んでいたため

俺より一年早く担任になっていた。

「今年は一年生だから気が楽だ。
去年は、大学受験の進路指導もあって
禿げそうだったけどな。
相談と愚痴に付き合ってもらったお礼に
今年は俺が付き合うから……遠慮せず連絡しろよ。
大変そうだろう?
……………例の彼女も受け持ったみたいだし…………。」

澤が指す『彼女』とは、もちろん藤堂夏生の事だ。

そこはあえて、小声で話す。

「う~ん……………。
やっぱり、大変なのかなぁ~??
さっき初めて見た印象は、何処にでもいる生徒だったぞ。
クラスにも自然に溶け込んでて。
強いて言うなら………美人過ぎてドキッとした位かなぁ~
なんて、教師が言うことじゃないけどな。」って笑うと………

「お前らしいな。
だから、任されたのかもな。
…………っと。
噂をすればだぞ…………。」

そう言って、肘でつつかれ澤の目線に合わせて首を動かせば。

視線の先に、藤堂がいた。

「…………あの………。
ちょっと良いですか?」

遠慮がちだが、物怖じしない性格らしい彼女は

俺達に近づいて来た。

「あぁ~
悪い悪い。」

ちょうど今、噂をしていた俺としては

なんとなく気まずい気がして。

悪くもないのに、謝ってしまう。

「じゃあ、澤。
またな!
近いうちに連絡する。」

そう言って、彼女の方を再び見る。

……………本当に、美人だよなぁ~

ハゲ親父の理事長の血を引いてるようには見えないよな。

教師らしからぬ感想を抱きつつ

「進路指導室と教室………どっちが良い?」と聞いてみると

「進路指導室で。」と返ってきた。

…………と言うことは、プライベートな相談だな。

「了解!
だったら、部屋を使う許可と鍵をもらって行くから。
先に行っててくれるか?」

まだ中学生だが

何かあってからでは取り返しがつかないからと。

ウチの学校では進路指導室に隠しカメラがついている。

音声は入らないから、相談内容は守られているけど………。

いささかやり過ぎな気もするが

保護者、生徒と教師に許可をえているから仕方ない。
< 5 / 37 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop