デラシネ
週末には決まって”デラシネ”に来る彼女。誰かを連れてくることなく、いつも一人で。仕事の愚痴を話すことはあるが、少ない。ほとんどが楽しかったことや嬉しかったこと、前向きな話ばかり。弱いところは見せまいと強がる姿をただ見ていることしかできない。
そしてまたいつもの週末がやってくる。
「いらっしゃい、疲れ切った顔」
扉を開けて立つ彼女はたくさんの、押しつぶれてしまうのではないかと思う程の荷物を背負ってやって来た。”デラシネ”にその荷物は置いて行ってほしい、そう願う。
「そっちこそ、相変わらず色気振りまきやがってちくしょう」
俺の言葉に対抗するだけの力は残っているようだった。いつもの席のカウンターへ腰を下ろす。
きっと今日も来るだろう、そう予想して作っていた料理たちの仕上げをしていこう。そう考えながらこの店には似つかないジョッキに注いだビールを彼女の前に出す。それを当たり前のように半量程一気飲みする彼女の姿に思わず笑みがこぼれる。