デラシネ
「相変わらず良い呑みっぷり」
「ありがとう」
「褒めてはいないが」
テーブルの上に料理を置いて行く。どの料理も彼女がおいしいと言ってくれたもの。おいしそうに食べる姿は愛おしい。そんな風にいつも考えてしまう。
ーカランー
扉から音がした。彼女はそちらに眼を向ける。俺は横目でそちらに眼を向けた。ああ、この匂い。
「「、、、ペトリコール」」
彼女の口からも同じ音がこぼれたような気がした。ペトリコールとは雨が降った後に地面から香る雨の匂い。いつだったか彼女にこの言葉を教えた日を思い返す。この匂いが好きだと小さく呟いた彼女の声を思い出す。