捨てられたはずが、赤ちゃんごと極上御曹司の愛妻になりました
「生きてると、なにが起こるかわからないものだね……」
「もう拒否しときなよ! 完全スルー。それでおしまい!」

 敦子に着信拒否を促され、その場で設定をした。
 しかし、敦子はまだ険しい表情を浮かべている。

「念のため、しばらく警戒したほうがいいかも。大丈夫?」
「うーん……ずっとアパートは変わってないし……家に来られる可能性はゼロではないけど」

 この三年、何事もなかったのにこんな厄災が降りかかるなんて。

 私が大きなため息とともに肩を落とすと、敦子がキリッとした顔で言った。

「真希。いくら面倒見がいいからって、こんなときまで〝相手のため〟を考えなくていいからね。元カレは、真希ならなんでも許してくれるって思ってるからこういうメールしてきたんだよ、絶対」

 敦子に釘を刺され、苦笑した。

 私はどうも世話焼き気質みたいで、結果、光汰のダメさに拍車をかけてしまったらしい。

 付き合っている時期は、どうにも気になって、彼の身の回りの世話をしすぎてていた。
 さらに、常に彼の意見を優先にしていたために、わがままを助長させてしまっていた節がある。

 それは、揉めるのは嫌だったし、そうしていれば面倒事を回避できたから、という理由だけ。

 結果、ますますプライドが高くなった光汰は、私を束縛するうえ好き勝手やり始め、私も我慢の限界がきて別れたというのが顛末。

 別れ話のときは、私の考えや思いが一向に伝わらなくて、結局向こうが怒り出して終わった。

「……はい。肝に銘じます」

 私が気を引きしめて返答すると、一拍置いて敦子の表情が元に戻った。
 私に身体を寄せ、ニッと歯を見せる。

「よし。じゃあ念のため、今日はうちに泊まりに来る? 一緒に家飲みしよ!」

 私の身を案じてくれて提案してくれた彼女の優しさに感謝し、その日は彼女の家でひと晩過ごした。

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