捨てられたはずが、赤ちゃんごと極上御曹司の愛妻になりました
「別れると言われたあと、もう一度会って話をしたかった。なのにあの日、スマホを紛失してしまって。翌日無事に届けられたのはいいが、真希と連絡がつかなくなっていて。まさかそこまで嫌われたなんて驚いて……ショックだったよ」
「あ……」

 あの日っていうと、私が佐野さんに連れられて携帯番号を変更した日だ。

「いや。すぐに会いに行けばよかった話なんだよな。あのときは本当に公私ともにいっぱいいっぱいで」

 苦笑いする彼を見て、胸がきゅっと苦しくなった。
 その頃の私は、柔軟性もなくて自分の気持ち以外見えていなかった。

 私は気づけば下を向いていた。

「聞いてもいいか? 短期間でアパートも職場も変えて、あそこまで徹底的に避けるほど嫌いな男との子どもを、どうして産んでくれたんだ……?」
「誤解しないで……! 私、拓馬さんを嫌いになったわけでも、ましてや憎んだりなんてしてません」

 顔を上げて拓馬さんと向き合うと、心の奥にしまい込んでいた感情が解き放たれる。

 それは、まるで昨日のことのように鮮明に。

「ただ大きなショックを受けただけです。そんなときに、秘書の人に念押しされて、売り言葉に買い言葉で……すべてから解放されたくて番号もなにもかも変えたんです。気持ちの整理をつけるにはいいかなと思ったし」
「秘書? って……うちの大村(おおむら)が?」

 拓馬さんが怪訝な表情で聞いてきた。

「拓馬さんの秘書の……佐野さんっていう男性ですよ」

 一年以上経っても忘れていない。
 秘書の名前だって、言われた内容だって。
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