捨てられたはずが、赤ちゃんごと極上御曹司の愛妻になりました
「さっき、豆料理食べてましたね。私はてっきり克服したのかと思って見てたら、どう見ても頑張って食べてるんですもん。笑っちゃった」
拓馬さんの苦手なもの。
昔、一緒にランチをしたときの些細な思い出を、今もちゃんと覚えてる。
彼はばつが悪そうに頭を掻いた。
「あー、好き嫌いしている姿を理玖に見せるのはよくないんじゃないかと思ったんだ」
なにげなく答えたんだろうけれど、自然に子どもへの影響を考えていた拓馬さんに驚かされる。
拓馬さんの車までたどり着き、どちらからともなく足を止めた。
彼はドアハンドルに手を伸ばしかけ、ぴたりと止める。
「『美味しいときの笑顔がシンプルな幸せのかたち』――真希はそう言っていたね」
「えっ……」
「あの言葉の重み、今日真希の実家で食事をごちそうになったときに実感した。まさしくささやかで、なににも代えがたい幸せだった」
私が拓馬さんの嫌いなものを覚えているように、あなたも私のたわいのない話を忘れずにいたの?
驚きとうれしさが同時にこみ上げる。
彼が私に手をすっと差し出した。
「真希。また俺の手を取ってくれないか。きみの人生を俺に預けてほしい。もちろん、理玖も。もう二度と傷つけたりしない。誓うよ」
私はすぐにその手を取れず、じっと拓馬さんを見つめた。
彼とこうして話ができてよかったと思ってはいる。が、私の中にはまだ葛藤があった。
「俺はまだ父親としては頼りないだろうけど、努力して失った時間の分、早くきみに追いつくから。俺の望みは、きみとあの子との未来なんだ」
真剣な眼差しから、今のは拓馬さんの本心だとわかった。
それでもなお、心が揺れているとき、ふと彼の差し出したままの手が視界に入る。男らしい大きな手が、わずかに震えていた。刹那、迷いから一歩抜け出せた。
いつも堂々として頼りがいのある彼も、私と同じで震えるほど緊張もすれば、必死に繋ぎ止めようと他人に頭を下げたりもするんだ。
そんなふうに追いかけてもらえて、うれしくないわけがない。
「好き嫌いみたいに何事も挑戦するのは大切だと思います。だけど、どうしても無理なものもある。そういうときは、つらい思いをしてまで頑張らなくていいです」
「どういう意味?」
彼は軽く眉根を寄せ、神妙な面持ちで尋ねる。
「ひとつだけ約束してください。これから先、私たちと居るために自分を犠牲にしてまで頑張らないことを」
私が真摯に伝えると、拓馬さんはまだわからないといった様子で首を傾げていた。
「なぜそんなことを? 真希や理玖と一緒にいて自分が犠牲になるなんてないよ」
「理玖を見て、なにか感じたことはないですか?」
「なにかって?」
予想通りの質問に、私は一拍置いてゆっくり息を吸った。
拓馬さんの苦手なもの。
昔、一緒にランチをしたときの些細な思い出を、今もちゃんと覚えてる。
彼はばつが悪そうに頭を掻いた。
「あー、好き嫌いしている姿を理玖に見せるのはよくないんじゃないかと思ったんだ」
なにげなく答えたんだろうけれど、自然に子どもへの影響を考えていた拓馬さんに驚かされる。
拓馬さんの車までたどり着き、どちらからともなく足を止めた。
彼はドアハンドルに手を伸ばしかけ、ぴたりと止める。
「『美味しいときの笑顔がシンプルな幸せのかたち』――真希はそう言っていたね」
「えっ……」
「あの言葉の重み、今日真希の実家で食事をごちそうになったときに実感した。まさしくささやかで、なににも代えがたい幸せだった」
私が拓馬さんの嫌いなものを覚えているように、あなたも私のたわいのない話を忘れずにいたの?
驚きとうれしさが同時にこみ上げる。
彼が私に手をすっと差し出した。
「真希。また俺の手を取ってくれないか。きみの人生を俺に預けてほしい。もちろん、理玖も。もう二度と傷つけたりしない。誓うよ」
私はすぐにその手を取れず、じっと拓馬さんを見つめた。
彼とこうして話ができてよかったと思ってはいる。が、私の中にはまだ葛藤があった。
「俺はまだ父親としては頼りないだろうけど、努力して失った時間の分、早くきみに追いつくから。俺の望みは、きみとあの子との未来なんだ」
真剣な眼差しから、今のは拓馬さんの本心だとわかった。
それでもなお、心が揺れているとき、ふと彼の差し出したままの手が視界に入る。男らしい大きな手が、わずかに震えていた。刹那、迷いから一歩抜け出せた。
いつも堂々として頼りがいのある彼も、私と同じで震えるほど緊張もすれば、必死に繋ぎ止めようと他人に頭を下げたりもするんだ。
そんなふうに追いかけてもらえて、うれしくないわけがない。
「好き嫌いみたいに何事も挑戦するのは大切だと思います。だけど、どうしても無理なものもある。そういうときは、つらい思いをしてまで頑張らなくていいです」
「どういう意味?」
彼は軽く眉根を寄せ、神妙な面持ちで尋ねる。
「ひとつだけ約束してください。これから先、私たちと居るために自分を犠牲にしてまで頑張らないことを」
私が真摯に伝えると、拓馬さんはまだわからないといった様子で首を傾げていた。
「なぜそんなことを? 真希や理玖と一緒にいて自分が犠牲になるなんてないよ」
「理玖を見て、なにか感じたことはないですか?」
「なにかって?」
予想通りの質問に、私は一拍置いてゆっくり息を吸った。