捨てられたはずが、赤ちゃんごと極上御曹司の愛妻になりました
 お風呂に入り、理玖を寝かしつけた後、リビングに戻ると母がいた。

「まだ起きてたんだ。なにしてるの?」
「理玖くんの冬の帽子でも編もうかと思って」

 カーペットに座っていた母は老眼鏡をかけ、いろいろな色の毛糸を見比べている。

 私は料理こそすれど、裁縫類はまるっきりダメ。これから理玖が成長するにつれ、裁縫する機会もあるだろうから、母を見習わなければな。

「ありがと」

 ぽつりと感謝の言葉を口にして、数秒間を開けて続けた。

「あのね。私、昨日佐渡谷さんにはっきり言われた。『一緒に暮らそう』って」
「そう」

 母は毛糸ばかり見ていて、私のほうを見ずにひとこと答えた。
 私は特に気にもせず、ソファに腰を下ろして続けた。

「詳しいことは省略するけどね。昔は私が佐渡谷さんを突き放したんだ。だから、次に一緒にいると決めたらもう絶対に血迷って放したりなんかしないし、こんな私を迎えに来てくれた感謝を忘れない」

 リビングの隣の和室に転がっていた理玖のおもちゃを視界に入れ、震えた声を出す。

「だけどね。それは私自身の望みであって、理玖はどうかなって。理玖を中心に考えたら、私の選択は違うんじゃないかと思って」

 自分の幸せが子どもの幸せになるとは限らないのではないか。

 特に理玖の父親である拓馬さんは、家柄が普通とは違う。その差は当然、生活環境や周りの人たちの対応も変わるだろう。

 今はゆったりと穏やかな環境下にいる理玖を、私の私情と独断で巻き込んじゃいけないはず。

 膝の上で合わせていた手を、ぎゅうっと強く握りしめる。
 おもむろに瞼を下ろし、冷静に。客観的に。と唱えていると、母が言った。
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