捨てられたはずが、赤ちゃんごと極上御曹司の愛妻になりました
 リビングに戻り、ひとり遊びしていた理玖を抱き上げる。

 拓馬さんのマンションは、以前来たときと変わらず、現在もモデルルームのようで、無駄なものはなくシンプルな部屋だった。

 それが今、リビングの一角には動物柄のジョイントマット。そのスペースにはカラフルな積み木や絵本が置かれている。

 初めはスタイリッシュな空間が壊れてしまうから、私の荷物を置いている部屋を理玖の遊び部屋にしようかと提案した。

 だけど、拓馬さんはあえて『ここでいい』と答えた。

 理玖や私のものがリビングのそこかしこに見えるのがいいらしい。
 生活感が出ているほうが、家族で暮らしている実感が湧いて幸せな気持ちになると話してくれた。

 私は理玖にほおずりをして、自分の心が満たされているのを感じる。

「理玖もそろそろご飯にしようか。待っててね。すぐできるから」

 私は理玖をジョイントマットのスペースに座らせると、キッチンに入って朝食の準備を始めた。すでに下ごしらえはできているから、数分で用意できる。

 手早く支度を進めていたら、突然壁にかかった大きなテレビ画面のスイッチが入って驚いた。

『人気俳優の不倫問題が最近続いていますが、今回は隠し子がいるケースですから、世間からのバッシングはより大きいようですね』

 コメンテーターが深刻そうな表情でそう言って、これまでの経緯をボードを使って振り返っていく。
 私は足早にキッチンを出て、理玖のそばにあったリモコンを拾い上げ、電源を切った。

 理玖が私を見上げ、ニコニコ顔で私の足を掴んで引っ張る。
 無邪気な理玖を見て、不安が過った。ネガティブな思考に押しつぶされそうで、私は理玖をもう一度抱きしめた。

 実子なのは事実でも、いまさら公表するのは詮索されるだろうし、憶測でいろいろと言われて拓馬さんも世間から厳しい意見を浴びせられるのは目に見えてる。

 そこまでして一緒になるのは、果たして最善なの……?

「まー」

 理玖の声で正気に戻り、俯いていた顔をグッと上げた。

 私が思い詰めたらだめだ。理玖にも不安が伝わるし、拓馬さんも傷つける。

 私は目を瞑り、ゆっくり息を吸って吐いた。
 瞼の裏側に拓馬さんが浮かぶ。

 彼は、私の心情に寄り添ってくれて、入籍だけはきちんと家族に認められてからとなった。

 拓馬さんは『どれだけ大変でも一切あきらめる気はない』と断言した。それがとてもうれしかった。

 だから私は気がかりなことがあっても決して立ち止まらず、前へ進んでいく。

 拓馬さんと理玖と三人で。
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