捨てられたはずが、赤ちゃんごと極上御曹司の愛妻になりました
 理玖の食事やお風呂を済ませ、寝かしつけをするときは決まって自分も寝落ちしてしまう。
 なんなら、もしかすると理玖よりも私のほうが先に寝ているのかもしれない。

 しかし今日は、夕方の件が頭の中をぐるぐると周り、いつもの睡魔さえまったく現れなかった。

 理玖の規則的な寝息を数分聞いて、こっそりと寝室を抜け出した。
 リビングに行き、残っていた茶碗洗いをする。キッチン回りの片づけがちょうど終わったときに、玄関が開く音がした。

「おかえりなさい」
「ただいま」

 拓馬さんの今朝と変わらぬ笑顔に、ほっとした。

「理玖は? もう寝ちゃったか」
「はい。三十分くらい前に。先にお風呂がいいですか?」

 カバンを受け取って言うと、拓馬さんがジッと私を見つめる。

「なに……?」

 もしかして、今日嫌な出来事があったって顔に出過ぎ?
 せめて出迎えるときは不穏な空気を感じさせないようにって思ってたのに。あとで折をみて報告しようと考えていたけど、今言ったほうがいいのかな……。

 私が迷っていたら、拓馬さんは薄っすら頬を赤らめて答える。

「いや。一週間過ぎても真希がここで出迎えてくれるのが慣れなくて……毎日うれしくて表情が緩む」
「そ、そんなふうに言われたら……こっちまで照れちゃいますから!」

 ふいうちの発言にこっちまで顔が熱くなる。
 まともに目も合わせられず、ひとまず彼をバスルームへ促した。
< 119 / 144 >

この作品をシェア

pagetop