捨てられたはずが、赤ちゃんごと極上御曹司の愛妻になりました
「どんな事柄も人それぞれの価値観がある。親父たち夫婦についての正解は当人にしかわからないだろう。そして、俺には俺の選択権がある」

 拓馬さんに引き込まれていたら、視線がぶつかった。

「彼女が必要なんだ。俺は彼女がいれば、持っている以上の力を発揮できる。お願いします。俺たちの結婚を認めてください」

 拓馬さんが頭を下げたので、自然と私も同様にする。
 拓馬さんはすっと顔を戻したのち、迷いのない声音で宣言した。

「もちろん理玖は俺たちの元で育てるよ。かけがえのない大切な宝物だから」

 義務や責任感や意地ではなく、彼が心から私たちの存在を大事に想っているのだと伝わってきた。

 それは私がどれだけ望んでも、決して手に入らない絆だとついこの間まで思っていたものだった。だから、感極まってつい泣いてしまった。

「ここ一年。拓馬が結果を残しているのは忠志も知っているだろう。拓馬は左右田屋との取引を成功させ次に繋ぎ、今なお、七井グループの発展に力を注いでいる。グループ全体がいい雰囲気になってきていると感じる」

 左右田屋……! 結局縁談はなくなったとだけ聞いたけど、仕事のほうは無事に取引できたんだ。それは相当、拓馬さんが頑張ったんじゃ……。

 ちらりと拓馬さんを見たら、恥ずかしそうにぼそっと言われる。

「付き合ってるときから思ってた。やることやって、真希との関係を周りからなにも言わせないようにって……」

 そのとき、ふと以前拓馬さんが口にしていた言葉を思い出した。

 彼と口論になったあの日、『仕事が立て込んでいるから距離を置きたい』と説明された。
 私は婚約者の存在に心が不安定でまともに取り合わず、言いたいことだけ言って拓馬さんのマンションを飛び出したんだっけ……。

「それなのに私……」

 自信がなかった。また男の人に裏切られたと思った。
 彼は出会ったときから、ずっと変わっていないのに。

「私もお家柄や七井グループの名に恥じぬよう努力いたします。拓馬さんや皆さんの足を引っ張ったりいたしません」

 すると、拓馬さんがそっと私の肩に手を置く。

「お祖父さん。彼女は守られるだけの人じゃありません。僕と一緒に戦ってくれる女性なんです」

 彼は私ににこっと柔らかく微笑みかけ、続けた。

「僕はそんな彼女だから、苦難があっても生涯をともにしたいと思っています」

 拓馬さんの堂々とした宣言は誓いの言葉そのもので、私は大事な場面だと言うのに、胸が高鳴ってしまった。
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