捨てられたはずが、赤ちゃんごと極上御曹司の愛妻になりました
 帰りの車の中では、行きのときのような緊張はもう消えていた。

 私たちのことは、お父様からはっきりと言葉で『認める』とは言われなかったけれど、『社のイメージが落ちたらお前が責任を取れ』とひとこと言い残していった。

「あれは……許しをいただけたって解釈でいいと思いますか?」
「たぶん。イメージどうこうなんて、言われなくてもどうにかするつもりだったし」
「……そうですよね」

 拓馬さんはハンドルを握りながらさらりと口にしたが、どうしても気まずい思いをしてしまう。
 私と一緒にいると、拓馬さんに迷惑をかけるのは避けられない道なんだなあと実感する。

「俺の妻と子どもを悪い印象にさせておくわけないだろ。社のイメージだって、社員や株主に迷惑かけっぱなしにはできないからちゃんとするさ」
「私にもなにかできることがあれば言ってください」

 落ち込むだけじゃだめ。これからは、ふたりで支え合っていくんだから。

 奮起してまるで仕事を求める部下みたいに隣の拓馬さんを見ていたら、彼は私を一瞥した。

「なら、俺を信じてついてきてほしい。過去は消せないけど、あのときも今も俺の気持ちに嘘はないから」
「……はい。約束します」

 私は小さく、でもしっかりと返事をした。拓馬さんは満足そうに口元を綻ばせる。

「それにしても……素敵なお祖父様ですね」

 あのあと知った話。

 佐野さんは元々お祖父様の元で仕事をしていたらしく、私たち情報を当時からひそかに伝えていたと聞いた。
 どうやら佐野さんはお祖父様に私を悪く言ってはいなかったらしい。

 さっきもお祖父様に『報告どおり魅力的な女性だった』と微笑みかけられ、動揺を隠せなかった。

「ああ。今度、理玖を会わせてあげなきゃな」
「そうですね。はあ……。安心したら、急にお腹が空いてきました」
「そうだな。どこかでゆっくり食べて……と言いたいところだけど、理玖も気になるだろ? なにか買ってから理玖を迎えに行って帰ろう。すぐそこに馴染みの料亭があって仕出しも……ん? なに?」
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