捨てられたはずが、赤ちゃんごと極上御曹司の愛妻になりました
いつまでも、かけがえのない人
 年を越して、二月になった。

 私たちは入籍して三か月が経ち、理玖はもうすぐ一歳を迎える。

 入籍後は想像通り、〝シングルマザーと結婚〟とか〝隠し子発覚で復縁婚〟などいろいろ噂された。
 まあ後者はあながち外れてはいないものの、明らかに揶揄した表現だったから気分のいいものではなかった。

 それでも質問されれば、拓馬さんが毅然とした態度で答え、私も逃げも隠れもせず堂々と振る舞っていたおかげか、大きな波紋が広がるまでには至らなかった。

 そして、拓馬さんは来月に七井物産の社長就任発表を控えている。

 通常の業務に加え、その準備に追われているらしく、毎日忙しそうにしていた。

 そのため夕食はもっぱら遅く。
 私はできるだけ起きているけれど、しばらく理玖と三人で食事ができずにいる。

 今夜も例外ではなく、時計はもうすぐ零時になるところ。

「ごちそうさま。美味しかった」

 私は食器洗いをしながら返す。

「よかったです。今日もまだお仕事あるならコーヒー淹れましょうか?」
「いや。もう遅いし休んでいいよ。いつもありがとう」

 拓馬さんはいつも私を気遣ってくれる。そうすると、余計になにかしてあげたくなるというものだ。

「私はまだ仕事もしてませんし、そのくらいしか」
「仕事量は比べるものじゃないよ。それに真希も休みなしで働いてるに等しいだろう。真希ひとりに任せっきりで申し訳ないと思ってる」
「その言葉だけで十分です」

 ひとりぶんの食器を片付け終えてキッチンから出たとき、ソファに座っていた拓馬さんが私を手で呼んだ。私は首を傾げ、彼の元へ足を向ける。

 すると、今度は〝隣に座って〟と座面をぽんぽんと軽く叩く合図をされて、おずおずと座った。

「提案なんだけど、俺の仕事も一段落つきそうだから、近々息抜きしたらどうかな。理玖は俺が見てるし」
「えっ。それなら三人で……」
「もちろん三人の時間も取ろうと思ってるよ。だから気にしなくてもいい。真希はもっとわがままを言ってもいいんだよ」

 柔和な笑みで言われ、どぎまぎする。

 拓馬さんは一緒に暮らしてから、すごくやさしいし、私や理玖を大切にしてくれているのが言動からわかる。

 これ以上なんて、幸せ過ぎて罰が当たりそう。……だけど。

< 133 / 144 >

この作品をシェア

pagetop