捨てられたはずが、赤ちゃんごと極上御曹司の愛妻になりました
 一週間後の日曜日。
 朝九時前に山梨の両親が、初めて私たちのマンションへやってきた。

「昨日はどうだった? ふたりでコンサートなんていいね」
「たまたま当たったのよ~。楽しかったわあ。たまにいいわね」

 母の笑顔を久々に見る。やっぱりなんだか安らぐ気がする。

 私はふたりをリビングに案内した。
 リビングでは拓馬さんが理玖に食事を上げてくれていた。

「おはようございます。お邪魔します」
「お久しぶりです」

 母が挨拶すると、拓馬さんは椅子から立った。母は理玖との再会に目尻を下げて、すぐさまダイニングテーブルへと近づいていく。
 そのとき、一番最後にやってきた父が口を開いた。

「は~、テレビで見るような部屋でなんだか落ち着かないな」
「ちょっと、お父さん。なに言うの」
「拓馬さん、ごめんなさいね。うちは築三十年になる平屋でずっと暮らしてるものだから」

 父の失言に私は慌てて窘め、母もすかさずフォローをした。父は涼しい顔をして、リビングへ歩みを進める。そして、窓際を見て足を止めた。

「でもここは同じだな、うちにいたときと。理玖がここで遊んでる光景が目に浮かぶ」

 父が見ているのは理玖のスペースだった。

「お前も。前に会ったときよりも少しふっくらした。前までは痩せすぎだったからちょうどいい」
「え? そ、そう?」

 ふいに私の顔を見て言うものだから戸惑った。
 自分の両頬を触って複雑な心境でいると、ふと感慨深げに父が零す。

「ここで幸せに暮らしているんだな」
「……うん」

 私は父をちらっと見て、照れながら小さく返事を返した。
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