捨てられたはずが、赤ちゃんごと極上御曹司の愛妻になりました
 数十分後。私たちは店を後にしていた。
 私は拓馬さんの隣を歩きながら、彼をちらりと見上げる。

「た、拓馬さん。こんなに買わなくても……私、普段は動きやすい服装になりがちだしもったいない気が……」

 拓馬さんの手には大きなショッパー。中身は全部私の服だ。
 さっき試着したワンピースだけではなく、拓馬さんの見立てでほかに数着見繕い、すべて購入した。

「でも似合ってたから。好きじゃなかった?」
「いえ……どれも可愛いなあとは思ってましたけど」
「だったらいいだろ? 真希は放っておいたら自分のものより理玖のものだから。それはそれでいいけど。これは次のデートにでも着てよ」

 拓馬さんの言う通り、実は今日もぶらぶらとショップを眺め歩いていれば、決まって理玖のものにばかり目がいっていた。
 理玖の生活用品を見るのが自然で、自分のものを選ぶほうが手間取ってしまった気さえする。

「あ、せっかくだしここも入ってみようか」
「えっ?」

 つま先を見て歩いていた私は、拓馬さんが足を止めた拍子に顔を上げた。視界に入ったのは、シックな黒の看板。
 そこは世界的に有名なジュエリーブランドのショップだった。

 さっきあれだけ買った上、こんな高級ジュエリーショップになんて入ったら……。

 不安に思う私をよそに、拓馬さんは私の手を引き、入り口へ歩を進める。

「拓馬さん」
「なに?」
「その……こんな高級なお店、入るのだけでも気が引けて」
「きっと入ってしまえば案外気にならないよ。それに俺、真希とこういうデートしたかったんだ。付き合ってくれるとうれしいんだけど」

 繋いだ手をきゅっと握られ、心が揺れる。

「じゃあ、見るだけ……」

 あの頃したかったこと、と寂し気な笑顔で言われたら私も応じずにはいられない。

 それに彼の希望を受け入れたあとのうれしそうな表情を目の当たりにしたら……私まで胸が温かくなる。
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