捨てられたはずが、赤ちゃんごと極上御曹司の愛妻になりました
「俺がしたいし、してほしい。迷惑?」
「め、迷惑なんて、そんなはず……」
「じゃあ試着してみて。すみません、これを見せてほしいのですが」

 彼はすぐに店員を呼んでショーケースから指輪を出してもらっていた。

 プライスキューブを見れば、目が飛び出るほどの金額だった。自動車が買えそうな値段だ。

「たっ、拓馬さん! これ、高すぎません!?」
「値段は気にしなくていい。俺がこのデザインが真希に似合うと思ったから。でも真希がほかに好きなものあるならそっちでも」
「いやいや! そういうのはありませんが……」
「高い指輪(もの)で帳消ししてもらおうとしているわけじゃないが……これまでひとりで頑張ってきたきみになにかしたい」

 拓馬さんの双眸からは切実な色が窺える。

 私たちはそれぞれの環境や感情があって、離れ離れになっていただけで、彼ひとりが罪悪感を抱く必要はないのに。

 本を正せば私にだって非はあって、理玖に関しては存在をあのまま隠していこうとしていたのだから、考えようによってはひどい仕打ちをしていたと思う。

 得も言われぬ気持ちで、左手の薬指にはめられた指輪を見つめる。
 すると、彼が私の左手を掬い取った。

「あとはありきたりだけど、俺の独占欲」

 一瞬、なにを言っているか理解できなかった。しかし、徐々に彼の言葉の意図を汲み取り、見る見るうちに頬や耳が熱くなる。

「シンプルなデザインで真希にすごく似合ってると思う。それに、ペアのほうもすっきりした形で俺も気に入りそう」

 莞爾として笑う拓馬さんを前にしたら、もうなにも言えなくなる。

 彼の指先から伝わる体温にときめき、胸の奥からじわりと幸せを感じる。

 こんなに穏やかで満ち足りた日々を送って……どんでん返しなんかないよね?
 きっと私、今また前のような試練が立ちはだかっても、もうひとりじゃ乗り越えられなさそう。
< 140 / 144 >

この作品をシェア

pagetop