捨てられたはずが、赤ちゃんごと極上御曹司の愛妻になりました
 指先から熱が灯り、辺りの景色も見えず、彼だけが瞳に映る。
 彼の長く生え揃った睫毛が徐々に上向きになって、輝く双眼に捕らえられた。

「真希、愛してる」

『愛してる』なんて言葉は、現実に使われることはないと思っていた。言われたとしても、上辺だけでそこに気持ちはないんじゃないか、と。

 だけど、今この瞬間だけは信じたい。信じられる。
 だって、私も同じ想いが溢れているから。

「私も……愛してます」

 ぽつりと零すや否や、私は拓馬さんに両手を伸ばした。
 背の高い彼に背伸びをし、首に腕を巻き付けて抱きつく。すると、ごく自然に彼も私の背に腕を回し、抱きしめ返してくれる。

「今日は一生分のプレゼントをもらいました」
「一生分? 今日のはこれまで離れていた分だ」
「もう十分です。これからは家族みんなで仲良く暮らせたら、それだけで」

 愛する人と一緒に、大切な宝物(子ども)を守っていく。

 ときには衝突したり、困難にぶつかる日もあるだろう。それをひとりじゃなくて、みんなで乗り越え、最後はみんなで笑い合いたい。

「きみの願いは俺の願いだ。必ず叶えるよ」

 彼は柔らかく微笑んで、私の頬をそっと撫でた。
 そしてイルミネーションに包まれる中、唇を重ねる。

 時が止まったように周りの雑踏も耳に届かず、私は彼だけを感じていた。

 名残惜しい気持ちで距離を取り、拓馬さんから手を離した。
 拓馬さんは私の頭にぽんと手を置く。

「一日あっという間だったな。まだゆっくりしたいところだけど、理玖に悪いから早く帰ろう」
「はい。急いで帰ればまだ起きてるかな?」

 頭を切り替えて返し、駐車場へと足を向ける。何歩か歩き出した直後、腕をグイと引っ張られた。

「えっ? ん……うっ」

 振り返るなり、ふいうちのキス。それも、大人のキスだ。

 冬だというのに身体が火照り、切り替えたはずの脳がまた恋愛脳へと引きずられる。力が抜け落ち、拓馬さんのコートにしがみついた。

 彼は至近距離のまま濡れた唇を開き、甘い声音で囁いた。

「家に帰れば理玖に取られるから、今のうちに」

 そうして、もうひとたび軽くキスを交わす。


 私は幸福に満たされ、ふわふわとした心で帰路についた。
 帰宅したら理玖は寝付いたところで、愛らしい寝顔にいっそう幸せを感じた。
 それから、私たちは三人並んで眠りに就く。

 素晴らしい今日の日に感謝をして、明日もまた、みんなが笑顔でいられるようにと祈りながら。

 私の髪を撫でる心地いい手つきにいざなわれ、夢の中に吸い込まれていく。
 そこで、私たち三人のほかに小さな女の子が一緒に笑っていた。

 翌朝には頭がぼんやりとして、そのうち夢の内容も忘れてしまった。



「真希、最近食欲ない?」
「ちょっとだけ……食欲より眠気がひどくて」
「あまり続くなら一度病院に行ったほうがいい」
「うーん……でも、この感じ前にもいつかあった気が……あっ」

 私は咄嗟に理玖を見る。

 あのときの夢を思い出したのは、数日経ったそんな日のこと――。




おわり





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