捨てられたはずが、赤ちゃんごと極上御曹司の愛妻になりました
 あれから四日経った。

 光汰の件はまだ最近のことだから、警戒心は常に持っている。

 もし、また顔を見ても気丈に振る舞おうと決めている傍ら、仕事が終わる時間に近づくと鬱々となってしまっていた。

 仕事が終わり、ロッカーの扉を閉めながら無意識にため息を零す。

「真希、大丈夫?」
「あ、うん」
「ごめん。大丈夫なんかじゃないよね。まったく、職場に来るなんてさ。本当相手の都合なんて一ミリも考えてない証拠だわ」

 敦子が憤慨しているのが、口調だけでなく歩き方にも表れていた。
 彼女はそのままヒールの音を大きく鳴らしてビルから出ると、辺りをきょろきょろと見回す。

「今日もいなさそうだね」

 敦子の報告にほっと胸をなでおろす。そして、私も外に出て敦子の隣に並び、ふたりで歩き始めた。

「敦子、駅の方向違うのに付き合わせてごめんね」
「いいのいいの。食後の運動にもなるし」

 私たちの料理教室は、受講生と一緒に作ったものを食べる。きちんとレシピ通りに作れたかどうかとか、受講生は味に満足してくれているかとか。

 味付けや盛り付けなどについて会話したり、コミュニケーションを取る時間にもなる。同じものを食すというのは、私たちにとって重要な意義がある。

 しかし、当然材料費を給料から天引きされている。通常よりも安く設定された金額ではあるけれど。

 それと、メニューが決まっているので、自分の都合で食べたいものを作れないのが欠点かもしれない。
 でも私は、家でひとりで食事をとるよりはいいかなと思っているから問題ない。

「そういえば、助けてくれた人ってあれから一度も見かけたりしないの?」
「ああ、うん。目立つ人だったから、視界に入ればすぐにわかると思うんだけど」

 敦子に質問されて、無意識に周囲を見た。背丈はたぶん、百八十センチは余裕であった気がする。長身のスーツ姿の男性となれば、近くにいたら目立つはず。

「青年実業家風の紳士系イケメンだっけ? そんな人いるなら私も一度見てみたい」

 敦子は目をキラキラさせてそう言った。そのとき、男性ふたりが正面から歩いてきたのに気づき、私は敦子の腕を引っ張って脇に避けた。
 すると、向こうも同じように動いて、結局立ち止まる。

「あ、すみません」

 軽く頭を下げてすり抜けようとしたのを、また身体で阻止され、ようやくこれは故意に足止めをしているのだと気づいた。

 私は男たちの顔を見る。どちらも知らない人だ。敦子に目配せすると、彼女もまた心当たりはないみたいだった。

「なんですか……?」
「覚えとけって言ったろ?」
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