捨てられたはずが、赤ちゃんごと極上御曹司の愛妻になりました
 私の質問への答えは、正面からでなく後ろから返ってきた。

 振り返ると、光汰と知らない男がもうひとり。目の前で立ちはだかる男と合わせて全部で四人だ。

 心臓が嫌な音を立てる。さすがにマズイ展開だ。
 しかも今は敦子もいるし……。まさかこんな面倒に巻き込む羽目になるなんて。

 私はどうやってこの場を切り抜けるか考えつつ、光汰に鋭い視線を送る。手にはびっしょりと汗をかいているが、焦りを悟られないようにしなくちゃ。

「覚えておきますって答えた記憶はないけど」

 気丈に振る舞って対峙すると、光汰は一瞬眉根にしわを寄せる。しかし、打って変わって満面の笑みを見せ、顔を近づけてきた。

「これは真希のため。男をナメてるとこういう目に遭うって誰かが教えてあげないと」

 唖然とした瞬間、敦子の短い悲鳴が聞こえてくる。慌てて確認すると、隣にいたはずの敦子が男ふたりの元で両腕を拘束されていた。

「ちょっと! その子は関係なっ……」

 敦子に気を取られている隙に、私も光汰に捕まった。

 痛いくらい腕を強く掴まれ、敦子もともに近くのビル影に引きずり込まれる。光汰は私を壁に追い込んで、勝ち誇った表情を浮かべて言う。

「ほら。怖いだろ? 謝れば許してやる。俺も真希が好きだから本気で傷つけようとは思ってないしさ。これは……そう。ちょっとした教育?」

 十数センチほどの距離にある光汰の顔をジッと見る。私は堪らず肩を震わせ、おもむろに俯いた。
 光汰は気分よさげな声を出し、私の顔を覗き込む。

「おい。なんだよ。泣いてるのか?」
「……がっかりした」
「え?」

 私は間抜け面した光汰をキッと睨みつける。

「心底がっかりしたって言ってるの。あんたにも自分にも」

 もう堪忍袋の緒が切れた。
 こんな人間を一度でも好きだった自分が許せない。
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