捨てられたはずが、赤ちゃんごと極上御曹司の愛妻になりました
 その後は電光石火だった。なにが起きたのか、すぐには理解できないほど。

 気づけば眼前に、仰向けに横たわる光汰と、巻き添えを食らった男ふたりが苦し気に地面に這いつくばっていた。

 今の、なに……? 一瞬、光汰が宙を舞った気がするけど……。

 ぽかんとして現状を眺め、確か今、助けに入ってくれた男性が光汰を華麗に投げ飛ばしたのだと理解した。
 後方にいた男ふたりは、急に飛んできた光汰から逃れられなくて共倒れしたのだ。

「手技のほかに、絞め技も得意だが」

 男性が唯一無事だったひとりを一瞥してそういうと、光汰の仲間は無言で首を横に振り続けた。
 スーツ姿の彼は、伸びてる三人の元に屈んでスマホを見せる。

「忠告だ。今度また同じようなことをすれば、これを持って警察に行く」

 どうやら、さっきのいざこざの一部を録画していたみたい。
 光汰が立ち上がり、彼のスマホを奪おうとしたけど、容易にかわされていた。

「これを壊したところで無意味だけどな。すでにバックアップ済みだから」

 とどめのひとことで、まわりの男たちは完全に萎えたらしい。

「なあ、もうかかわるのよそうぜ」
「お、俺ら、頼まれただけだし!」

 口々に言うなり、この場からサーッと引いていった。ひとり取り残された光汰は、しかめっ面を私に向ける。

「もういいわ。やっぱ、もっと優しい相手にするわ。お前みたいにきついタイプじゃない女ね」

 片側の口角をいやらしく上げて、憎たらしい捨て台詞を置いて去っていった。

 私はもはや腹も立たず、ようやく縁が切れたかと息をつく。しかし、私に代わって激昂したのは敦子だった。

「はあ!? こっちこそ願い下げだっつーの! もう、真希! 気にしないほうがいいよ、あんな男」

 敦子は鼻息を荒くして、光汰が歩いていった方向を睨みつけている。
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