捨てられたはずが、赤ちゃんごと極上御曹司の愛妻になりました
「佐渡谷だ」
「佐渡谷さん。度々恥ずかしいところをお見せしたうえ、二度も助けていただいてすみません。ありがとうございます! こんな偶然ってあるんですね。私にとっては幸運でしたけど、そちらにとっては不運続きでしたよね。申し訳ないです」
「いや……」

 佐渡谷さんが、なにか言い淀むような微妙な反応をする。私は首を傾げて彼を見つめた。
 すると突然、ふっと目を伏せて謝られる。

「すまない。実はあの日からどうも嫌な予感がして、この辺りを通るようにしていた。そしたら今日、あの男をまた見かけたから」
「えっ」

 佐渡谷さんの発言に驚いた。

 今の話から察するに、私のいざこざを気にかけて、わざわざこの辺りを帰宅ルートに入れてたってことだよね?

「途中で俺が見失わなければ、不安な思いをさせずに済んだのに。悪い」

 さらに謝罪を重ねられ、私は戸惑うばかりで言葉が出て来ない。
 そのとき、私に代わって敦子が明るい声を放った。

「そんなことないですよー。結果的には、そのおかげで動画もいいタイミングだったわけですし。ね? 真希」

 私はこくりと頷く。

「この間から気にかけていただいていたなんて……本当、どうお礼を伝えたらいいのか……」
「そうだ。お礼しようよ。ふたりで」

 敦子が軽いノリで提案してきて、私は目を瞬かせた。

 確かにお礼をしたい気持ちはある。だけど、具体的になにがお礼になるかわからなくて、はっきりとその言葉を口にできなかった。

 彼の身なりを見る限り、スーツや腕時計も高級そうだし。私たちが感謝で用意できるものなんて知れてるだろうし……。
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