捨てられたはずが、赤ちゃんごと極上御曹司の愛妻になりました
 翌日は、敦子と一緒にいつもよりも早く出勤してマフィンを焼いた。
 うちの教室では、私たち講師が私用でキッチンを使うのを許されている。

 やっぱり職場のほうが調理器具も揃っているし、調理台も広いから料理しやすく、ときどき使わせてもらっている。

 粗熱が取れたところで、私たちはひとつずつラッピングを始めた。

「佐渡谷さんって、いい男だよねえ。昨日見たときは指輪もなかったし、独身かなって思ったんだけど」

 私は敦子の発言を聞いて手を止めた。

「えー? あのときそんな細かなところまでチェックしたの? すごいね」
「そうよ~。だからお礼って言って会う口実作ったんじゃない」

 口実……。私なんて顔を見るのがやっとだったっていうのに。まあ敦子のちゃっかりした性格なら納得いくか。

 私が再び手を動かし始めたら、今度は敦子が手を休める。そして、私に顔をずいと近づけた。

「なかなかあそこまで揃った人に出会わないよ!? 背はあるし、顔もカッコよくて! さわやかで清潔感もあって、極めつきは仕事ができる!」

 人差し指を立てて真剣な面持ちで熱弁する敦子に、私は圧倒されつつも疑問を口にする。

「どうして仕事ができるなんてわかるの?」

 思い返しても彼の仕事がなにかなんて会話はしていなかったはず。

 私が大きく首を傾げると、敦子は指を左右に振って「ちっちっ」と舌を鳴らした。
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