捨てられたはずが、赤ちゃんごと極上御曹司の愛妻になりました
 翌日。時計を見たら時刻は朝六時半。
 カーテン越しにでも天気がいいのがわかる。気持ちのいい休日の目覚めだ。

 とはいえ、今でも夜中に最低一度は泣いて起きる理玖に付き合って、正直朝はなかなか眠気が引かない。だけど、せっかくの休み。少しでも長い時間を理玖と過ごしたい。

 私はまだ小さく寝息を立てている理玖を起こさぬよう、そろりと布団を抜け出した。

 うちの実家は廊下からキッチン、リビングと回遊できる間取りだ。
 私は部屋から直接キッチンへ向かい、顔を出した。

「おはよう」
「あら、おはよう。相変わらず休みでも早起きね」

 そういう母は、いつも私よりも早起き。水道の蛇口を止め、手を拭いて私と向き合った。

「寝てる時間がなんだかもったいなくて」
「ふふふ。そういうところ、お父さんそっくり。

 母はリビングで新聞を眺めている父に目をやって、こっそり笑って言った。

 昨年定年退職した父は、ゆっくり休む間もなく近所の農家へアルバイトに行ったり、町内の清掃のボランティアに参加したりと忙しく過ごす。

 どうやら黙って座っていられるのは新聞を読んでいるときか、テレビの天気予報を見ているときくらいらしい。きっと、このあとも朝食を済ませたら庭の手入れに行くんだろう。

「理玖くんは寝てるの? 台所使う?」
「うん。朝方にちょっと泣いたからまだ寝てる。台所、いい?」
「いいわよ。ちょうど朝食の準備終わったところだから。お父さん、ご飯食べます?」

 新聞越しに「ああ」とひとこと返ってきたのを聞き、母は茶碗に炊き立てのご飯をよそい始めた。

 私はそれを横目に手を洗って準備をする。
 朝食は母が私の分も作ってくれている。私が作ろうとしているのは理玖の離乳食。

 柔らかくすれば、だいぶ固形のものを食べられるようになった。バリエーションが増えていくと、作るほうも楽しい。

 仕事で料理をしていても、我が子の食事となればまた別だ。普段、一緒にいる時間が短い代わりにこのくらいは手をかけてあげたい。
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