捨てられたはずが、赤ちゃんごと極上御曹司の愛妻になりました
「本当に? 俺の気のせい?」
「はい」

 佐渡谷さんは私の答えを聞き、「ふう」と息を吐いていた。直後、信号が青に変わって、車が進み始める。
 私はフロントガラスに集中する彼の端正な横顔を横目で見た。

 佐渡谷さんって、とても律義で……優しい人だ。
 親切な人なのは光汰から二度も助けてくれた時点で知っていたけれど。

「実は嫌われてなかったなら言おうと思っていたんだけど」
「なんでしょうか……?」

 突然、さっきとは違う固い声音に背筋が伸びた。
 怜悧な顔つきにドキッとする。

 なんだろう。怒っている様子とは違うし……仕事絡みの話かな。
 とはいえ、私にかかわる内容なんて料理くらいのもので、大して役に立てない気がするけれど。

「その前に、ひとつ知っていてほしいこともあるんだ」
「知っていてほしいこと?」

 ますます話が見えなくて、私は首を捻った。

 ちょうどそのとき、広い公園が見えてきて、佐渡谷さんは悠々と駐車場に車を入れた。辺りには一台も車は止まっていない。私たちだけ。

 佐渡谷さんは一度エンジンを切った。
 しんと静まり返る車内は、メーターパネル等の明かりもなくなって薄暗い。

 その状況が、いっそう私を緊張させた。
 心臓がドクドクと鳴り続ける中、彼が鈍い光を灯す双眼を向けてくる。

「知ってほしいのは俺のこと」
「佐渡谷さん……の?」
「以前、名刺を渡したから俺の肩書きはもうわかっているよね?」
「え、ええ。七井物産の常務……と」

 彼がこのあとなにを告げるのか予想も立たない。身構えるしかできない私は、無意識に握った手を胸に当てて佐渡谷さんを見つめていた。

 佐渡谷さんが、僅かに口角を上げて言う。

「そう。そして、将来的に七井物産の指揮を執る立場に就くと思う」

 私は彼が続けた言葉に目を剥いた。

 七井物産の指揮……? それって、つまり……社長とかそういうこと?

「父が取締役社長で祖父が取締役会長なんだ。いわゆる跡継ぎってやつ」

 その若さで常務という役職に就いている理由なんて、考えれば後継者っていう可能性に行きつきそうなものなのに。私は全然そこまで深読みしなかった。

 いざ、はっきりそうだとわかると、納得しつつもやっぱり衝撃的で反応が遅れてしまう。

 私が驚き固まっているせいか、佐渡谷さんは軽い口調で笑った。
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