捨てられたはずが、赤ちゃんごと極上御曹司の愛妻になりました
「ああ。でもすぐって話じゃない。まだ先の話だし、可能性があるだけ」
「なぜそれを私に……?」

 自然と疑問が口から出た、次の瞬間。
 佐渡谷さんはおもむろに私の手を掬い取る。

「俺と付き合ってくれないか」

 ゴツゴツとした男らしい指先に触れられた衝撃さえも、一瞬で吹き飛ぶ。

「俺の素性を曝け出したうえで、きみに気持ちを伝えたかった。肝心なのは気持ちだって言うけど、現実はそれだけで判断するにはリスクもあるだろうし」

 佐渡谷さんは、いったいなにを言っているんだろう。

 思考が一周回って弾けた。
 私の頭の中は真っ白で、まるでゼンマイが止まった人形のように瞬きもできずに硬直した。

「宇川さん? ……そんなに驚いた?」

 私の反応に、佐渡谷さんまでびっくりしているみたい。

 いや、だって。
 これ、どういうこと?

 自分は芸能人でもないのに、どっきりを仕かけられているとしか思えない展開だ。

 いまだにひとことも発せずにいると、彼は恥ずかしげもなく私の指にキスを落とす。
 瞼を押し上げるや否や、どこか色っぽい彼に上目で見つめられて指一本すら動かせない。

 せめて声だけでも、とやっとの思いで喉の奥から絞り出す。
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