捨てられたはずが、赤ちゃんごと極上御曹司の愛妻になりました
ときめくほど、好きな人
 今日は土曜日。早番だ。

 あの日からもうすぐ二週間が経とうとしていた。

 基本的には平日仕事の佐渡谷さんと、土日祝は仕事となりやすい私。
 そのため、会うのはもっぱら仕事後。

 私が佐渡谷さんの会社方面へ出向くのはときどきで、ほとんど彼が私の職場近くまで迎えに来てくれていた。
 たぶんいつも、すごく忙しいだろうに、時間の都合をつけてくれているんだと思う。

 六時半になったのを確認して、私はほかのスタッフに声をかけてロッカールームへ向かう。途中、事務所から敦子が出てきた。

「真希! お疲れ~。そっか今日早番だったね。じゃあ今日はデート?」
「う……まあ……」

 ニヤニヤとあからさまに冷やかしの目を向けられ、途端に頬が熱くなる。

「だよね~。今日彼は休みなんでしょ? 今、一番楽しい時期だもんねえ。付き合いたてってさ! あーいいなあ。私もそろそろ彼氏ほしい」

 さらに敦子が羨望の眼差しを向けてくるものだから、気恥ずかしさを抱く。

「私は大丈夫よ。真希と飲みに行く機会が減ったって、ちゃんと理解してるから」
「う、うん。ありがとう。ごめんね」
「いいのよ。その代わり……そのうち、佐渡谷さんの知り合い紹介してもらえるようにセッティングして」
「えっ!」

 急に声のトーンを低くして言われ、思わず驚いた。

「だって、イケメンの知り合いはイケメンっぽいじゃない?」

 おどけて答える敦子の様子から、半分冗談なのを感じ取ってホッとする。

 いくらなんでも、まだそういう話をできるほど私ですら彼と親しくなっていないし。

「ま、追々の話よ! とりあえず、真希はようやくいい男捕まえたんだから、幸せになりなよ」
「はは……」

 私は引きつった顔で笑い、敦子と別れた。
 着替えを済ませ、荷物を持って外へ出る。

『ようやく』ね……。敦子は私が光汰としか付き合ったことがないって知ってるからなあ。
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