捨てられたはずが、赤ちゃんごと極上御曹司の愛妻になりました
「せめて〝食べる〟ほうじゃなく〝作る〟ほうのイメージに転換できるよう努力することにします」

 私がぽつりと零すと、佐渡谷さんが口を開く。

「語弊があった。イメージが食べ物っていったのは、美味しそうな料理を見ると、きみの可愛い顔を思い出すって意味」

 か、可愛い……って、そんな言葉もらったこともない。

「さて。今日はどうしようか? 和食はこの間行ったし、その前はパスタだったかな? それならイタリアンも避けたほうがいいか」
「佐渡谷さんは、今日のお昼はなにを召し上がったんですか?」

 私が尋ねると、佐渡谷さんは小さく首を捻って答える。

「今日? あー、今日はそういえばまともに食事してなかったかも……。家にいるとそんなもので」
「えっ。昼からなにも……?」

 私は一日三食きっちり採るタイプだから驚いてしまった。

 まあ、男の人ならよくある話なのかも。まして、今日佐渡谷さんは休日だったから。
 そうは言っても、普段の会話から、きっと自炊はしないみたいだし……きちんと栄養とれてるのかな。

 私は余計なおせっかいとは思いつつ、恐る恐る提案をする。

「あの、もしよければなんですけど……。なにか作りましょうか?」
「え?」
「佐渡谷さんって、ひとり住まいって言ってましたよね。もしかして、外食が多いのかなって。それに、お昼をちゃんととっていなかったなら、外食のものだと胃に負担かかりそうですし」

 なんたって、私の唯一の長所は料理が苦じゃないことだし。腕がいいかは別にして。

「自炊なら、自由に一汁三菜考えて作れちゃいますから。ただ、これからうちに来ていただいてもいいんですが、車を置く場所が……」

 現実問題、私のアパートは駐車スペースはないし、部屋も決して広くはない。
 そうなると、選択肢はひとつしかなくなるところまで考えが至らなかった。
 これじゃ、まるで料理を口実に押しかけようとしているみたいじゃない。

 ちゃんと先を考えて発言しなかった自分に後悔する。

「だったら、うちに来ればいいよ」

 左隣からあっさりとした返答が返ってきて、目を瞬かせる。
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