捨てられたはずが、赤ちゃんごと極上御曹司の愛妻になりました
「え……。急な提案なのに……ご迷惑じゃないんですか?」

 光汰がそうだったせいかもしれないけれど、多くの男性は急に自分の家に入られるのを嫌がるものだと思ってたから。

 きょとんとする私を見て、佐渡谷さんはくすっと笑う。

「全然。宇川さんの手料理が食べられるなら喜んで」

 快くOKしてくれて拍子抜け。
 その後、徐々に別の緊張がやってくる。

 自分から提案しておいて、なにを作ろうか。
 考えたら、佐渡谷さんは日常的に素晴らしい料理を口にしていて、舌が肥えているはず。

 私はと言えば、特別料理の腕がいいわけでもなく、いつも作るのは一般家庭に並ぶような料理。ど、どうしよう。

 ひとりでメニューに悩んでいると、佐渡谷さんが「ああ」となにかを思い出す。

「だけど、うちのキッチンには調理器具や調味料はあまりないな」

 ということは、やっぱり手料理の習慣はないんだな。よし。せっかくだから、少し常備菜も作ろう。おせっかいな女と思われたら仕方ない。
 だって、私にできるのはそれくらいだし、やっぱり健康が気になるもの。

「調味料は材料と一緒に調達しましょう。そうだ! あと、フライパンはちょうど私が持ってるじゃないですか。そうしたら、お鍋だけ買えばいいですよ。今後も使えますし」

 そこまで話して、はっとする。

「す、すみません。厚かましい発言を……」

 別にそういう意図で言ったわけじゃないけど、今の言い方だと『この先も私が使いに行きますから!』的なニュアンスにも捉えられる。
 慌てふためいたところで、すでに発言してしまったものは取り消せない。

 冷や汗を流していると、佐渡谷さんの視線を感じる。

「なんで? 真希さえよければ今日だけじゃなく、これからも作りに来てよ」

 思いも寄らない返しに、口をぽかんと開けた。

 え……? そんなにあっさり?
 付き合いも間もないのに、ずかずかとプライベートな部分に踏み込まれたら、嫌な顔するとばかり……。
 それとも、この場の雰囲気を優先して社交辞令を言ったとか。

 頭の中でいろいろな可能性を巡らせる。
 佐渡谷さんの横顔に変化はなくて、真意を掴めない。

 そのとき、彼がふいに「あっ」と漏らした。
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