捨てられたはずが、赤ちゃんごと極上御曹司の愛妻になりました
「えっ。ど、どうかしましたか?」
「そういや食器もない。失敗したな。こういう機会があるって想定してれば、食器の十枚や二十枚、買い揃えておいたのに」
ぶつぶつとつぶやく佐渡谷さんに、私は思わず吹き出した。
「二十枚って。多すぎですよ」
車内に私の笑い声が響く。少し落ち着いたところで彼を見たら、柔和な面持ちで私を一瞥した。
ほんのひととき向けられた視線にドキッとする。
「それじゃあ、宇川さんに選定してもらおう。俺だと不必要なものまで買って無駄にしてしまいそうだから」
私は跳ねる心臓を落ち着けようと、敢えて静かな口調で答える。
「だったらあまり多種類を揃えようとしないで、いろんな料理に使えるようなオールマイティなものを選んで……」
「うん。任せるよ。そのほかにも必要なものを揃えたら?」
「そのほか?」
無意識に首を傾げて聞き返す。そこでまた信号のタイミングで車が止まった。
次の瞬間、佐渡谷さんの綺麗な顔が近づいた。
反射的に肩を上げ、目を閉じる。
すると、左耳に低くしっとりとした声音で囁かれる。
「今夜は泊まっていったらいい」
突然の誘いに仰天し、彼を凝視する。耳の奥に佐渡谷さんの甘い声の余韻が残る。
身体の奥に届いて、左半身がじんじんと痺れる錯覚を覚えた。
「どのみち明日も約束してたし、どうかな」
佐渡谷さんは声だけでなく、その色っぽい視線でも私を誘惑する。真剣な双眸からは逃れられなくて、私は潤む瞳に彼を映し出していた。
あまりにドキドキしすぎて、呼吸すら忘れている気がした。
視界も頭も胸の中も、佐渡谷さんでいっぱいにされる。
「無理強いはしないよ」
私がなにも答えないせいで、彼は眉を下げて困ったように笑った。
傷つけたかったわけじゃない。ただ本当に驚いただけだ。
私はすぐに否定しなければ、と震える声で自分の気持ちを言いかける。
「や……そういうわけじゃ」
「でも俺はきみと一分でも長くいたいけどね」
それを遮って重ねられた言葉に、私は完全に彼に心を奪われた。
「……は……い」
体裁とか恥ずかしさとか全部忘れ、自分を求めてくれる彼に笑ってほしいと思った。
そしてまた、私も同様に彼との時間を欲していた。
「そういや食器もない。失敗したな。こういう機会があるって想定してれば、食器の十枚や二十枚、買い揃えておいたのに」
ぶつぶつとつぶやく佐渡谷さんに、私は思わず吹き出した。
「二十枚って。多すぎですよ」
車内に私の笑い声が響く。少し落ち着いたところで彼を見たら、柔和な面持ちで私を一瞥した。
ほんのひととき向けられた視線にドキッとする。
「それじゃあ、宇川さんに選定してもらおう。俺だと不必要なものまで買って無駄にしてしまいそうだから」
私は跳ねる心臓を落ち着けようと、敢えて静かな口調で答える。
「だったらあまり多種類を揃えようとしないで、いろんな料理に使えるようなオールマイティなものを選んで……」
「うん。任せるよ。そのほかにも必要なものを揃えたら?」
「そのほか?」
無意識に首を傾げて聞き返す。そこでまた信号のタイミングで車が止まった。
次の瞬間、佐渡谷さんの綺麗な顔が近づいた。
反射的に肩を上げ、目を閉じる。
すると、左耳に低くしっとりとした声音で囁かれる。
「今夜は泊まっていったらいい」
突然の誘いに仰天し、彼を凝視する。耳の奥に佐渡谷さんの甘い声の余韻が残る。
身体の奥に届いて、左半身がじんじんと痺れる錯覚を覚えた。
「どのみち明日も約束してたし、どうかな」
佐渡谷さんは声だけでなく、その色っぽい視線でも私を誘惑する。真剣な双眸からは逃れられなくて、私は潤む瞳に彼を映し出していた。
あまりにドキドキしすぎて、呼吸すら忘れている気がした。
視界も頭も胸の中も、佐渡谷さんでいっぱいにされる。
「無理強いはしないよ」
私がなにも答えないせいで、彼は眉を下げて困ったように笑った。
傷つけたかったわけじゃない。ただ本当に驚いただけだ。
私はすぐに否定しなければ、と震える声で自分の気持ちを言いかける。
「や……そういうわけじゃ」
「でも俺はきみと一分でも長くいたいけどね」
それを遮って重ねられた言葉に、私は完全に彼に心を奪われた。
「……は……い」
体裁とか恥ずかしさとか全部忘れ、自分を求めてくれる彼に笑ってほしいと思った。
そしてまた、私も同様に彼との時間を欲していた。