捨てられたはずが、赤ちゃんごと極上御曹司の愛妻になりました
 買い物を終えて佐渡谷さんの自宅に着いて驚いた。

 天に向かって高くそびえ立つタワーマンション。
 高すぎて何階まであるか数えきれない。おそらく五十階近くまでありそうだ。

 豪然たるシャッターの門を車に乗ったまま潜り抜ける。佐渡谷さんは立っていた警備員に会釈をして、地下駐車場へ入っていった。

 超がつくほど高級マンションだ。当然、これまでこんな場所に縁なんかない。
 まるでどこかのテーマパークかのように、非日常的な光景に興奮して周りをきょろきょろと見回した。

「宇川さん。こっち」

 気づけば佐渡谷さんは荷物をすべて降ろし、マンションに興味津々だった私を見て笑っていた。

「あっ。半分持ちます」

 急いで佐渡谷さんの元へ駆け寄って手を伸ばすと、すいっと躱される。

「じゃあ、内ポケットからキー出せる?」
「え? は、はい」

 言われるがまま、彼のスーツの上着を少しだけ捲ってポケットに手を忍ばせる。
 否が応でも距離が近くてドキドキしてしまう。

「これ? ですか?」

 内ポケットを探って指先に触れたのは一枚のカードだけ。
 無意識に『キー』と聞いて、自分が持っている普通の鍵を想像していた。

「そう。エレベーターもそれがないと動かないから」
「えっ。そうなんですか? すごいなあ」

 私は手にしたカードキーがとてつもなく大事なものだとわかり、両手で握り締める。

 佐渡谷さんの指示通りにカードをかざし、エレベーターが動くと行き先は最上階である四十七階だった。
 さっき、まるでテーマパークだ、なんて心の中で思っていたけれど、本当にそれで、絶叫系マシンにでも乗った気分。

 個別の玄関でも同じくキーをかざすと、静かな廊下にカチャン、と音が響く。佐渡谷さんの両手は塞がっているため、おずおずと私がドアを引いた。

「ありがとう」

 荷物を持ってもらっているのは私のほうだ。
 頭を横に振って恐縮すると、先に中へ入った佐渡谷さんが「どうぞ入って」と私に声をかけてくれた。

 外観も駐車場も廊下も素晴らしいマンション。
 当然ながら、玄関ですら圧倒された。

 まずは広さに驚かされる。もしかすると、うちのバスルーム以上の広さがあるかもしれない。
 インテリアもモダンで、モデルルームを見ているよう。

 茫然としているうちに、佐渡谷さんは荷物を置いてきたのか空手で戻ってきて私にスリッパを出してくれた。

「使って」
「ありがとうございます」

 来客用のスリッパはクッションがしっかりしていて履き心地がいい。

 明るめのフローリングの廊下を歩いていくと、リビングにたどり着いた。

「わ……!」
< 59 / 144 >

この作品をシェア

pagetop