捨てられたはずが、赤ちゃんごと極上御曹司の愛妻になりました
九時半頃。私は抱っこ紐で理玖を抱き、近所を散歩していた。
「天気いいね! 寒くない?」
理玖の帽子を深く被らせる。
辺りは一面、黄金色。実家のすぐ近くは、田んぼや畑があって長閑だ。
十五分ほど歩いていたら、理玖がうとうとし始めているのに気づく。
「あれ? 寝ちゃう? 帰ったらご飯だよ~」
理玖の背中をさすって話しかける。だけど、理玖はその後すぐに目を閉じた。
私は可愛い寝顔を見つめ、自然と頬が緩んだ。
「重くなったねえ」
出産直後は約三キロだったのが、今では九キロに達しそうなほど大きくなった。柔い肌は透き通るような色白で、髪や瞳の色素も薄い。睫毛も長く、よく女の子に間違われるほど。
理玖の小さな手に自分の人差し指で触れる。そのとき、畦道に似つかわしくない革靴が視界に入り、顔を上げた。
仕立てのいいスーツを纏うスタイルのいい男性は、実に田舎の風景とミスマッチだった。……が、驚いたのはそこじゃない。
「真希」
端正な容貌を瞳に映した瞬間、低くしっとりした声で名前を呼ばれる。
たちまち私の心臓は激しく脈を打ち、瞬きも忘れた。
それはまるで、時間が止まったように。
彼がここにいるのは、おそらく偶然なんかじゃなく自らの意思。にもかかわらず、私と同じく動揺しているのは……きっと理玖を抱いているから。
彼の視線は私の胸の中の理玖にある。
「た……くまさん……どうして」
声が震える。足が竦む。でも、瞳を逸らせない。
彼……佐渡谷拓馬さんは綺麗な顔を歪ませている。
それが怒気を含んだものにしか思えなくて、私は硬直し続ける。
拓馬さんはさらに一歩近づき、精悍な目つきで私を見た。
「説明してくれるんだよな? 俺たちの空白の時間のことを」
『説明』なんていまさらなにもない。
なぜなら、あの日、確かに私と彼は終わったんだから。
「天気いいね! 寒くない?」
理玖の帽子を深く被らせる。
辺りは一面、黄金色。実家のすぐ近くは、田んぼや畑があって長閑だ。
十五分ほど歩いていたら、理玖がうとうとし始めているのに気づく。
「あれ? 寝ちゃう? 帰ったらご飯だよ~」
理玖の背中をさすって話しかける。だけど、理玖はその後すぐに目を閉じた。
私は可愛い寝顔を見つめ、自然と頬が緩んだ。
「重くなったねえ」
出産直後は約三キロだったのが、今では九キロに達しそうなほど大きくなった。柔い肌は透き通るような色白で、髪や瞳の色素も薄い。睫毛も長く、よく女の子に間違われるほど。
理玖の小さな手に自分の人差し指で触れる。そのとき、畦道に似つかわしくない革靴が視界に入り、顔を上げた。
仕立てのいいスーツを纏うスタイルのいい男性は、実に田舎の風景とミスマッチだった。……が、驚いたのはそこじゃない。
「真希」
端正な容貌を瞳に映した瞬間、低くしっとりした声で名前を呼ばれる。
たちまち私の心臓は激しく脈を打ち、瞬きも忘れた。
それはまるで、時間が止まったように。
彼がここにいるのは、おそらく偶然なんかじゃなく自らの意思。にもかかわらず、私と同じく動揺しているのは……きっと理玖を抱いているから。
彼の視線は私の胸の中の理玖にある。
「た……くまさん……どうして」
声が震える。足が竦む。でも、瞳を逸らせない。
彼……佐渡谷拓馬さんは綺麗な顔を歪ませている。
それが怒気を含んだものにしか思えなくて、私は硬直し続ける。
拓馬さんはさらに一歩近づき、精悍な目つきで私を見た。
「説明してくれるんだよな? 俺たちの空白の時間のことを」
『説明』なんていまさらなにもない。
なぜなら、あの日、確かに私と彼は終わったんだから。