捨てられたはずが、赤ちゃんごと極上御曹司の愛妻になりました
「手伝うなんて言ったけど、手際が良すぎて俺の出る幕なんかなかったな」

 料理の終盤に差しかかったところで、佐渡谷さんが料理を盛りつけているのを見ながら苦笑した。

「そんなことないですよ! 火加減の管理とか、ひとりだと結構疎かになりがちで」
「これだけの種類を同時進行して作ればそうだろう」
「今日は少し張り切り過ぎました。今のうちに言っておきますが、いつもはもっと質素です」

 私はワンプレートになるべく見栄えよく盛りつけ、二枚のプレートを手に取った。すると、佐渡谷さんが「貸して」と代わりにダイニングテーブルまで運んでくれた。

 最後に味噌汁をよそって、鍋の蓋を閉める。

「お待たせしました。いただきましょうか」
「あれは?」

 私がキッチンを出る直前、佐渡谷さんはIHに視線を送って尋ねてきた。

「あ、あの鍋は明日以降にでも食べてください。ぶり大根ならぬ、鮭大根です。あとで煮卵も漬けておきますね」
「えっ。明日以降のぶんも? 気を遣ってくれてありがとう」
「いえ。おせっかいをすみません。佐渡谷さんお忙しそうですし、気休めかもしれませんが、食生活で健康に少しでも貢献できればと」

 佐渡谷さんは軽く瞼を伏せ、ダイニングチェアに腰をかける。
 私もペコッと一度頭を下げてから、向かい側の席に着いた。

 瞬間、彼がその綺麗な瞳で私を捕らえる。

「おせっかいだなんて思わないよ」

 そうして、ゆっくりと口角を上げていき、本当にうれしそうな表情を浮かべる。

 なんていうか――無防備なくらい私に素を晒してくれている気がした。
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