捨てられたはずが、赤ちゃんごと極上御曹司の愛妻になりました
 肩で息をする私の耳に、さらに欲情を掻き立ててくるほどの蜜を含んだ声を落とす。

 そんな声音で誘い文句を囁かれて、NOと言える女の子はいないんじゃないかと思う。

 私は自分の顔が真っ赤だという自覚があったため、両手で覆いながら、こくんと頷いて見せた。
 羞恥心に耐え忍んでいると、ぐわっと身体が宙に浮いた。

「ひゃあっ」

 私は咄嗟に佐渡谷さんにしがみつく。いわゆる、お姫様抱っこ。

 だが、彼のたくましい腕に抱え上げられ、うっとりする余裕などない。
 不慣れな状況に、がっしりとした肩に頬を乗せ、必死に彼の首の後ろに手を回して固く目を閉じる。

 すると、私の不安を癒すように、佐渡谷さんは私のこめかみにキスを落とした。些細なやさしさに頬が緩む。

 ベッドルームに着くと、ゆっくりと丁寧にベッドに降ろされた。

 薄暗い部屋の中、彼しか見えない。

 佐渡谷さんは私を組み敷いては、じっと私を見下ろす。
 それから唇に、ちゅっと軽く触れた。

 経験のない疼きがせり上がってくる。
 見つめられるのも、触れられるのもものすごく恥ずかしい。身体を背けて隠れてしまいたいくらいに。

 けれども反面、その熱を帯びた瞳に映し出してほしい。

 私の肌にしなやかな指先を滑らせて、情熱的に求めてくれたら――。

 数秒先に、そんな淡い期待を寄せている。

「潤んだ目も可愛いな」

 左手を掬い取られ、甲に口づけられた。そのまま、彼の唇がなぞるように私の腕へと辿っていき、私は堪らず声を漏らす。

「あ……佐渡谷さ……っんん」
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