捨てられたはずが、赤ちゃんごと極上御曹司の愛妻になりました

荒む心を、救ってくれた人

　五月。世間はゴールデンウィーク真っ只中。
　しかし私は連休など関係なく、仕事に勤しんでいた。

　全国に百店舗以上ある料理教室。おしゃれな雰囲気が売りで、若い女性に人気の料理教室クッキングルームが私の職場だ。

　私はその中の丸の内にある店舗に勤めている。
　調理専門学校を出てすぐ就職し、今年は五年目になる。

　遅番は夜十時までのシフト。あと片付けをして一日終えたとホッとしたとき、ぽんと肩に手を置かれた。

「真希、お疲れ様。今日は体験レッスンの申込者が多くて大変だったね」

　話しかけてきたのは、茂森(しげもり)敦子(あつこ)。彼女は気の合う同期。
　私たちは狭いロッカールームでエプロンを外す。

「うん。でも楽しんでくれてたみたいだし、入会してくれるといいなあ」
「真希のグループ、盛り上がってたもんね」

　敦子はロッカー内側につけられた鏡の前で、ショートボブの髪を整えながら続ける。

「ねえねえ。そういえば知ってる？　今度からうちの会社、オーガニック食材を売りにしていくらしいよ」
「あ、なんとなく噂は聞いてた。やっぱり身体にいいものって女の人は興味あるだろうしね」

　支持を得ているのが女性のため、うちの会社も、写真映えする料理とか子どもにも優しい料理とか、いろいろと考えているっぽい。

「でも当然、受講料も高くなるじゃない？　大丈夫なのかなー」
「確かにね。まあ、私たちはひとつひとつ丁寧に料理作って、楽しさと美味しさを伝えるしかないよ」

　私はロッカーを閉め、なんとなくいつものクセでバッグの中にあるスマホを探る。スマホを見つけて取り出すと、画面にいくつか通知が表示されていた。

「そうだねえ」
「は……？」

　敦子がバタンとロッカーの扉を閉めてつぶやいたと同時に、私は思わず声を漏らしてしまった。

「え？　なに？　どうかした？」

　パッとスマホから敦子に目線を移し、ぎこちなく笑う。

「いや。なんか……元カレから……変なメッセージが」

　私の言葉にさっきまでリラックスした表情だった敦子が一変した。眉をひそめ、低い声で尋ねてくる。