捨てられたはずが、赤ちゃんごと極上御曹司の愛妻になりました
 あの後、左右田さんは何事もなかったように帰っていった。

 彼女の姿がなくなっても、私はずっと彼女の言葉や視線が頭から離れない。

「真希、まだいたの? もう上がったら?」

 メインキッチンの下の収納スペースに調理用品をしまっていたら、すでに着替え終えた敦子がいた。

「あ、うん。わかってる」
「じゃあ、私今日ジム行く日だから先帰るね。お疲れ様。彼氏によろしく~」

 敦子はにやけ顔で手をひらひらとさせて去っていった。
 私は苦笑して敦子を見送ると、ため息を零す。

 それから暗い気持ちで帰る支度をして、重い足取りで外に出た。

「お疲れ様です」

 待ち構えていたようなタイミングで声をかけられ、びっくりして肩を上げる。

「さ、佐野さん!」

 顔を上げたら拓馬さんの秘書の佐野さんがいて狼狽える。

「名前を覚えていただき光栄です。ところで、顔色がだいぶ優れないようですが大丈夫ですか?」
「ちょっと……仕事が忙しくて……」

 咄嗟に顔を背け、たどたどしく答えると鋭い視線で返される。

「本当にそうですか?」
「え……?」
「左右田静香さんが原因でしょう」

 核心を突かれ、佐野さんを凝視する。

「なっ……知って……?」

 そういえば左右田さんも佐野さんの名前出していた。

 ふたりは繋がっていたってこと忘れてた。

 瞳を揺らして思考を巡らせる。
 佐野さんは今回はなにを伝えにきたのか……。

 考えが纏まる前に、佐野さんに直球を投げられた。

「彼女の機嫌を損ねたせいで職場に影響が出てしまいましたね」

 私が原因なのは、左右田さん本人の言動で知った。
 でも、彼女の出した条件さえ守ればイベントの企画は元通りになるはず……。

「ちなみに、大変なのは宇川さんの周りだけじゃないんですよ。我が七井グループとの取引も危ういものになっていて」
「は? 七井グループも……?」

 突然知らされた事実に頭の中が真っ白になる。

「拓馬さんも左右田屋へのフォローで手いっぱいですね」

 佐野さんの声もどこか遠くに感じる。

 まさか、それすらも私のせいだっていうの? だって、もう私は拓馬さんとはなんの関係もなくなったっていうのに。

 茫然と立ち尽くしていると、佐野さんが続けた。
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