捨てられたはずが、赤ちゃんごと極上御曹司の愛妻になりました
 しかし、あくる日。

 再び仕事から帰宅した際、母から『今日も来た』と報告された。

 さらに翌日も、次の日も。さらに、その次の日も訪問してきたらしい。

 三日目あたりからは、職場にまで現れるんじゃないかとそわそわしていた。
 結局、彼が職場に姿を見せることはなかったけれど。

 母が言うには、拓馬さんが訪問してくる時間帯はいつもバラバラらしい。
 忙しい中時間帯はバラバラみたいだから、時間の合間を縫って来ているのかもしれない。

 あれから五日目の今日も、仕事から帰宅するなり母の顔を窺えば、黙って一度頷かれた。
 それは〝彼が来た〟というサイン。

 ついには私も驚きも焦りもしなくなって、母の報告を受けては複雑な心境に陥っていった。

 追い返されるってわかっていて、毎日わざわざ東京から来るのは生半可な気持ちじゃないと思う。
 それに、どういうルートで実家を探し当てたかは知らないが、そこまで知られているならおそらく私の職場だって調べられたらわかるはず。

 しかし、職場には一切来ず、実家にやってきてはひたすら頭を下げているって言うんだから……決意した心が揺らいでしまう。

 夕飯のあと、理玖と母が和室で遊んでいる隣のリビングで、テレビを眺めている父にぽつりと言った。

「お父さん、嫌な役させてごめん」

 すると、父はリモコンでチャンネルを変えながら返してきた。

「別に。理玖の世話はほとんど母さんがしている。俺の役割はこういうときに守ってやることだ」

 こんなことがあって心配になりつつも、私が仕事に行けるのは父と母のおかげだ。
 そして、やはり男親の存在は頼れるものなのだと痛感した。

 自分が大人になり、父が歳をとっても、それは変わらないのだ。

「ごめんね。ありがとう……」

 ありがたいなあ、と思うと同時に、唯一私が理玖に与えてあげられないものがあると突きつけられた気がした。
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