捨てられたはずが、赤ちゃんごと極上御曹司の愛妻になりました
 私は両親に引き続き理玖をお願いし、拓馬さんを外に連れ出していた。

 この間、再会を果たした畦道をふたりで並んで歩く。

「この前も思ったんだけど、真希痩せたな。ちゃんと食べてる?」
「ええ。私が疲れて料理する元気がない日も、母がいますしちゃんと食べてます」

 確かに、拓馬さんと別れてから妊娠・出産を経て、あの頃よりも体重は落ちていた。
 しかし、体調不良ではないし、弱っていたせいだと勘違いされたくない。

 彼と今一度向き合うと決めたものの、まだ動揺していて拓馬さんの顔を見られない。
 俯いて、足元から前へと長く伸びる影を瞳に映していた。

「ごめん。きみが今でも俺を憎んでいても、俺はやっぱりきみに会いたかった」

 憎む……? 私、この人を憎んでいたことってあったっけ……?

 拓馬さんの言葉に違和感を抱く。

 確かに突然ここへ来た際には冷たくあしらったし、別れ話のときもケンカっぽかったかもしれないけど……。

「しかも、その……まさか、子どもができていたなんて考えもしなくて……。男の俺がもっとしっかり気をつけるべきだったのに、それを今まで気づきもせずひとりで苦労させてしまった」

 彼とは短い期間だった。それでも、こんなふうに肩を落として弱々しい声を出す姿は珍しいんだろうとわかった。

 私はこのとき、ようやく拓馬さんを見て答えた。

「あの夜は……私自身、それを求めていた気がします。さすがに妊娠がわかった当初は動揺しましたけど、理玖がいて幸せなんです。だから気にする必要はないです」

 拓馬さんのせいで、とはたった一度も頭を掠めたりしなかった。
 どちらかと言えば、理玖の存在を知った後、じわじわと幸福感に包まれた気がする。

 そのうち、私たちは木陰の下にベンチを見つけ、どちらからともなくそこに腰を下ろした。

 拓馬さんは自分の手を合わせ握り、夕陽を眺めながらぽつぽつと話し始める。
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